この住まいは、決して「新しくする」ためだけのリノベーションではありませんでした。
もともとそこに流れていた時間、使い込まれた木の表情、差し込む光の角度。
それらを一度すべて丁寧に読み取りながら、「これからの暮らし」と静かに重ね合わせていく作業でした。
玄関土間から続く緩やかな動線。
障子越しに揺れる光と、格子の影。
あらわになった梁は、過去と現在をつなぐ構造そのものとして、この住まいの記憶を今も静かに支えています。
キッチンや水まわりは、現代の暮らしに合わせて機能を再編集しつつも、仕上げや質感はあくまで素朴に。
造作した洗面や収納、タイルや木の手触りには、「使うほどに馴染んでいく余白」を意識しました。
完成した瞬間がゴールではなく、ここから先、住む人の時間によって完成していく空間であってほしいと願います。
畳とフローリング、土間と居室。
異なる素材や文化が一つの住まいの中で自然に呼吸し合うように、境界はやわらかく、用途はおおらかに。
差し込む光や、夜に灯る一つひとつの明かりが、これからの暮らしの風景をゆっくりと描いていくことを願って。
「古さ」は決して過去ではなく、「積み重ねてきた時間」。
その価値を未来へと結び直すことこそ、今回のリノベーションで私たちが最も大切にしたテーマでした。